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その街に美味しいパン屋さんはあるか?―面白法人カヤック柳澤氏に聞く、”地域”に根ざした暮らしの魅力。

その街に美味しいパン屋さんはあるか?―面白法人カヤック柳澤氏に聞く、”地域”に根ざした暮らしの魅力。

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「どんな家に住むか」と同じように「どの街に住むか」というのも、理想の住まい選びにおいて重要な要素の一つですよね。たしかに、通勤のしやすさや大型スーパーの有無といった利便性は大切です。資産性という意味で、地価も重要でしょう。その他に、人と場所の関係性を決める要素にはどんなものがあるでしょうか?

そう考えを巡らせる中でふと浮かんだのが、古都“鎌倉”に本社を置くWEB制作会社「面白法人カヤック」の存在です。上場企業となった今なお鎌倉本社にこだわりを持つ同社。IT企業が中心となって活動している鎌倉支援プロジェクト「カマコンバレー」の牽引役でもあります。

利便性だけを考えれば、都心部のほうが圧倒的に都合は良いはずです。それにも関わらず、カヤックはなぜ鎌倉に根をおろしているのか。カヤックと鎌倉という土地の関係性に目を向けることで、私たちの「住みたい街の選び方」の新たなヒントが得られるのではないか。ということで、今回は面白法人カヤック 代表取締役CEOの柳澤大輔さんにお話を伺ってみました。

柳澤大輔 氏 (Daisuke Yanasawa)
面白法人カヤック 代表取締役CEO。
1974年香港生まれ。慶應義塾大学環境情報学部卒業後、ソニー・ミュージックエンタテインメントに入社。1998年、学生時代の友人と共に面白法人カヤックを設立。鎌倉に本社を構え、オリジナリティのあるコンテンツをWebサイト、スマートフォンアプリ、ソーシャルゲーム市場に発信する。2014年には鎌倉の企業として唯一の上場を果たす。100以上のクリエイティブディレクターをつとめる傍ら、2012年カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル、2010年東京インタラクティブ・アド・アワード、2009~2014年Yahoo!インターネットクリエイティブアワードなどWeb広告賞で審査員をつとめ、著書に「面白法人カヤック会社案内」(プレジデント社)、「アイデアは考えるな」(日経BP社)、などがある。ユニークな人事制度(サイコロ給、スマイル給、ぜんいん人事部)や、ワークスタイル(旅する支社)を発信し、「面白法人」というキャッチコピーの名のもと新しい会社のスタイルに挑戦中。  

面白法人カヤック 公式サイト

 

面白法人カヤックが「鎌倉」を選んだワケ。

― そもそもカヤックが鎌倉に本社を置いた理由を教えていただけますか?

まずは、鎌倉という土地がもともと持っているポテンシャルです。例えば、海と山が近いという立地。単純に、人間として気持ちが安定するだろうというのがひとつです。さらに、カヤックはWEBのクリエイターが集まった会社ですが、クリエイターの仕事環境という点でみても魅力的でした。この業界では「地方出身のデザイナーのほうが活躍する」などと言われたりもしますが、少なくとも自然の造形物のような“本物”にふれることは、クリエイターにとってきっと意味があることだと思います。都会のビルや建物はすべて人工的に作られたものですからね。

そういう自然的な要素もあれば、地政学的にエネルギーが集まっているようなところもあり、古いお寺をはじめとした“コンテンツ”の充実度も高いのが鎌倉です。ある種のブランドがありますよね。

そこに本社がある企業というだけで、少なくとも全く知らない土地にある会社と比べてまず一歩有利ですし、IT企業なのに鎌倉というギャップ、その掛け合わせが面白いかなと。

― もともと地元が鎌倉というわけでは?

地元は全然違いますね。

― 純粋に、会社の戦略にマッチした土地として選んだと。

そうですね。いわゆる“中心”から少し離れた場所であるというのも良かった。スタートトゥデイ(ZOZOTOWNの運営企業)も幕張にオフィスがありますし、任天堂も京都の会社ですよね。中心から離れているがゆえに、物事を客観的に見ることができる、というのは事実としてあると思っていて。その点も、特にオリジナリティを重視している会社にとっては価値のあることだと思います。

例えばオタク系の事業をやっている会社だったら「秋葉原」が良いとか、その街の持つイメージと会社との整合性ってやっぱりあるんですよ。だからこそ、「どの場所を選ぶか」というのは、ある程度は戦略性に基づいて決められるべきなんじゃないかと。これは会社であろうと個人であろうと同じことだと思います。

……というところが、「会社経営」という観点から分かってきたこと。もうひとつ、「カマコンバレー」という鎌倉の地域活動、こっちはボランティアベースの活動なんですが、これをやってみて分かったこともあります。

柳澤さん横顔

会社とは違う、“もうひとつの居場所”。

― カマコンバレーでは、鎌倉に縁のある企業や個人が集まって、“街づくり”につながる活動をいろいろと行っていますよね。

この街を自分がどう変えていくか。そういう視点で考えていくと、次第に街に対する愛情が湧いてきて、どんどん好きになっていくんですね。この感覚は、カマコンバレーをやってみて初めて感じたことです。

実際に変えられているかどうかは別として、やっている感というのかな。街に関わっている感覚。これはとても重要な気がします。

どの街が自分にとって便利か、例えば子どもが生まれたとして、どの街の助成金が有利なのか。そういった観点で比較して住む街を選んだとしても、たぶんその街が好きだという感情にはつながらないと思いますよ。

会社も同じですよね。どっちのほうが給料がいいか、その会社に身を置くことがどれだけ自分に得か、そういう考えで働いていても楽しくないでしょう。自分がこの会社をどう作っているか、どう変えていけるか。その域までいかないと、本当の楽しさって生まれないじゃないですか。

― カマコンバレーの活動って、具体的にはどんなものがあるんですか?

いろいろありますよ。街を盛り上げるためにお祭りを作ろうとか、防災の啓蒙イベントをやろうとか。自ら手を挙げて、クラウドファンディングを使ってお金を集め、実現する。

市民の方々に向けて、みんなで何かをやるという経験をすると、やっぱりその街が好きになってきますよ。

例えば防災のイベントは、当初はシンプルに防災の啓蒙をしようという話だったものが、2年目にはいろんな人が関わるようになってきました。鎌倉には関東大震災をリアルタイムで経験された方がご存命なんですね。関東大震災って実は震源地が相模湾で、鎌倉の街も壊滅的だったそうなんです。地震で大仏が動いたという話もあるくらいで。それを生きて体験された方がいらっしゃるんだから、だったら直接お話を聞かせていただくイベントをやろうと。それで何名かで口説きに行って、実際に来ていただいて。

― それはすごいですね!

いや、「すごい」というのとはちょっと違うかもしれない。単純に「こんなことやりたい」という、それだけです。別にそれで地域を変えることができたわけではないですが、自分の携わったイベントが、実際に街で行なわれていくことそのものが、その人の街に対する意識を変えていく。そうしてより一層、その街のことを考えるようになっていく、ということですね。

市民から出たアイディアが形になって。そこに市が協賛したり後援したりして、より一体化していく動きを経験すると、面白いですよ。何かを享受するばかりだと、この感覚は手に入らないと思います。

お話中の柳澤さん

若いうちは家なんて寝に帰るだけのようなもので、地域との関わりもほとんどありませんよね。でも歳をとるにつれて、子どもが地域の学校に通ったりもするわけで、どうしても関わりあいが出てきます。土日に近所のお付き合いが出てきたり。“会社”と“地域”、両方が重要になってきます。

会社は、やっぱりある程度はバリバリ競争ですし、そこには評価という概念がついてまわります。評価が低ければ給料に響くし、良い仕事も与えられない。それはそれで、そんなもんだと割り切れちゃえばいいんでしょうけど、そうもいかないじゃないですか。

一方で、街づくりはボランティアの活動です。もちろん評価されることも多少はありますが、それでも報酬をもらってやっているわけではないじゃないですか。何となく「自分なりの貢献をすればいい」というマインドでやっていると、そのうち少しずつ楽しくなってきて、そうするとその楽しさが会社での仕事にも影響して、そっちはそっちでやり甲斐が出てきて。会社と地域が、“両輪”になって回りはじめるんですね。

両方が充実しているとどんどん楽しくなってくるし、一方がダメなときはもう一方で補完することもできます。そんなふうに会社と地域の両方があると、やっぱり心身ともに充実した状態を保つことができる、ということなのかな。仕事もいつかは引退ですからね。引退したときに、地域に自分の居場所や活動の基盤があるという状況は、ポジティブなことなんだろうなと思います。

― なるほど、会社以外のもう一つの居場所としての“地域”。

そうですね。もちろん“家”というのも、居場所の一つだと思います。例えば、自分の家をリノベーションするという行為にも、そういった意味合いがあると思う。単純に家というハコを享受するのではなく、自分なりの意見や好みを取り入れてつくった家だと愛着もわくし、住んでいてより楽しくなる。個人的には、賃貸のお部屋をリノベーションしたって良いと思いますけどね。

 

美味しいパン屋さんのある街は、ポテンシャルが大きい!?

― ありがとうございます。住みたい街をいかに選ぶかというところから、その街といかに関わっていくかというところまで、大切なヒントをいただけたように思います。最後に一つだけ。もしこれから「住む街を選ぶ」という方がいたとして、何か一つ、見極めるポイントをアドバイスするとしたら?

いろいろありますが、一つ挙げるとすれば「美味しいパン屋さんがあるかどうか」という視点はいかがでしょうか(笑)。

― パン屋さんですか!?

個人経営の美味しいパン屋のある街には、しっかりとした感覚とセンスが備わっている、ということは言えるような気がします。食に対する感度の高い人が移り住んできている街であり、さらに多少値段が高くてもそれを買う住民がいる、ということですから。

いくつかあるポイントのうちの一つではあるのですが、食に対する感覚のような、目には見えないものに対する価値観やセンスが、街をみる際の一つのものさしになるんじゃないかと思います。

もちろん田舎にいけば美味しい野菜や果物とかたくさんあると思うし、当然それもいいんですが、個人的にはそれだけだとちょっとつまらないかなと思いますね。

― なるほど、食に対する感度の高さを測る基準としての「パン屋さん」ということなんですね…。今日から早速、自宅の周辺エリアを見る目が変わりそうです。貴重なお話、ありがとうございました。

 

著作「空飛ぶ思考法」


(終わり)

 

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