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サラリーマンしながら「本屋」をオープン!? 兼業本屋がDIYでつくる“街の本棚”とは

サラリーマンしながら「本屋」をオープン!? 兼業本屋がDIYでつくる“街の本棚”とは

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皆さんは子ども時代に「大きくなったら本屋さんになりたい」と夢見たことはありませんか? たとえ別の職業に憧れたとしても、本が好きであれば街で目にする「本屋さん」を応援する気持ちを抱いているはず。

しかし、時代は「出版不況」の真っただ中。大小さまざまな本屋が姿を消しつつあります。

そんななか今回お話を伺ったのは、「兼業本屋」として書店をオープンした松井 祐輔さん。

なんと、老舗出版社でサラリーマンとして働く傍ら、勤務地の近くに借りたテナントでご自身の書店を一からDIYで作り上げているほか、書籍の執筆から製本・出版までをすべて「自らの手」で行っているといいます。

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松井さんの手がける書店、「H. A. Bookstore」が位置する蔵前は、オーガニック煎茶にこだわりぬいたお茶屋さん、ハンドメイド手帳やオリジナルインクを販売する文房具屋さん、カフェバーを併設したホステルなど、下町の趣きを残しながら「ものづくり」のトレンドを発信し続けている街。

そんな蔵前で、超行動派の松井さんの考える新しい本屋の形が、街のトレンドの一つとしてどう姿を現すのでしょうか。

 

「兼業本屋」という選択 :松井祐輔氏インタビュー

—まずは松井さんの簡単なご経歴についてお聞きしたいのですが、ずっと本に関わるお仕事をされてきたんですか?

そうですね。もともと父が多読家だったこともあり、小さい頃から本が好きだったんです。そして大学卒業後は、出版社から本を仕入れて書店に売るという「取次」(とりつぎ)の仕事をしていました。

本屋さんが全部の出版社と直接取引きするのは大変なことなので、間に入って精算のやり取りをしたりとか、出版社から大量に仕入れた本を書店ごとにダンボールに入れて送ったりというような流通に関わる仕事をしている会社でした。

—現在は本棚から内装まで、すべて手作りでお店つくりをされていますが、DIYを始めたきっかけはなんでしたか?

東京・虎ノ門に開かれていた「リトルトーキョー」(2015年9月末クローズ。現在は清澄白河に移転準備中)というコミュニティー内で「小屋を作るボランティア」を募集していたんですね。そこに参加するまで、DIYの経験はゼロだったんですが、一から小屋を作り上げました。でも、その時に作った小屋がしばらく物置同然になっていたんですよ。そこで「もったいないから、僕が本屋にしていいですか?」って言って、「小屋ブックス」という本屋にしたんです。

小屋ブックスは2坪のスペースを利用した「働き方の総合書店」というテーマの小さな書店で、自分一人でお店を運営しながら、仕事に関係する本を売っていました。

小屋ブックスの思い出がたっぷり詰まった看板との一枚。

小屋ブックスの思い出がたっぷり詰まった看板との一枚。

—すごいチャレンジ精神!実際に小屋ブックスを運営されたことで、「兼業としての本屋」という現在のスタイルが具体的なものになっていったということでしょうか?

どうでしょうね…。僕はもともと流通の部分に関わる仕事をしていて、今は出版不況で「本が売れない」とか「本屋が潰れる」とか言われている中で、「新しい本屋が作り辛い」みたいな話があって。でも「小さい本屋でもやり方を変えればできるんじゃないかな」と思っていたんですね。小屋ブックスの取り組みもまた、その一環としてあったことだと思います。

—本屋業界が苦戦している中で、「本屋文化」を守っていきたいという思いで始められたんですか?

「こういう本の売り方もある」っていうのを実践を通じて提示したいんです。例えば、小屋ブックスのような2坪の店舗でも、新刊を仕入れて売るという方法で一年間で750冊くらい売ることができて、赤字は出さずに続けられたんです。世の中に同じような2坪のスペースが全国に100箇所あれば、全体で7万5千冊の新刊を売り上げたことになる。これって、1冊の新刊の売り上げ部数としてはなかなかの数字なんですよね。

そうして新刊が売れれば、また新しい本が作れる。買う人を増やすことが、文化を守るうえでは最重要のことですし、そのサイクルの一端になれればなと思って。

—なるほど。実際に松井さんは「人」と「本屋」のインタビュー誌である『HAB』を出版されていますよね?この出版の経緯について教えてください。

 本と関わる仕事をしていく中で、「本に関する全部をやってみよう」と思ったんですよ。取次の仕事を通じて、流通の部分を知れたというのもありましたし。とは言っても、本の原価や印刷のことについては全然知らなかったし、実際に本がどう作られて、どう売られるのかに関しては「やってみないと分からないだろうな」と思って。

せっかくの機会だから、「出版」と「本屋」をちゃんとやりたいと考えた、その出版の部分がこの『HAB』ですね。この本に関しては、取材から編集、レイアウトにいたるまで基本的に自分でやりました。これで印刷・製本以外を除けば、本に関する一通りのことを実践することができたと思います。

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—『HAB』の第一回は「新潟の書店」がテーマとのことですが、この特集にいたった経緯などあれば教えてください。

北書店さんという大好きな本屋さんがあって、取材も含めて通い詰めているうちに、新潟には面白い本屋さんがもっと沢山あることを知って。元々は新潟は特集のひとつとして予定していたのですが、気づけば一冊まるまる新潟の本屋さんを扱っていたという(笑)

—(笑) この雑誌は自費で出版されたんですか?

どうでしょう…自費出版の定義にもよりますが、費用もふくめ全部自分でやっているという意味ではそうですね。ただ、出版社として登録していて書籍のコードも取っていますし、普通の本屋さんでも販売できるように取次業者とも契約しました。

— す、すごい…本当になにからなにまでご自身で手がけられているんですね。

 

“松井流” DIY講座

市販の木材で作ったシンプルな木枠。

市販の木材で作ったシンプルな木枠。

それを組み上げていくと・・・

それを組み上げていくと・・・

ご覧の通り、立派な本棚が完成間近。

ご覧の通り、立派な本棚が完成間近。

お次は「すのこ状」の構造を利用した雑誌棚作り。

お次は「すのこ状」の構造を利用した雑誌棚作り。

工具の取り扱いも、もう手慣れたもの。

工具の取り扱いも、もう手慣れたもの。

慎重に、平行バランスを確かめます。

慎重に、平行バランスを確かめます。

 

「暮らし」と「本屋」

—現在DIYで製作中のこの本屋が完成したら、「兼業本屋」としてどのような仕事と生活のあり方が可能になるのでしょうか。

基本的には土日オープンで、ペースが掴めてきたら平日は仕事が終わった5時以降からオープンするっていう感じですね。フリーランスとしての作業場としても利用するつもりなので、書籍作りなど他の仕事はここで行う予定です。なのでここは、私の事務所兼本屋ですね。

そもそもオフィスは基本的に土日は空いているじゃないですか。街を歩いていると「ここ本屋にできるかも」という一等地のオフィスが土日は閉まっていたりするんですよ。経営関係の仕事にも携わっていたので、坪効率的にももったいないな、本屋として活用できればいいのになって思ってたんです。なので、ここも自分がいる時だけ本屋になる事務所にしようと思いました。ここが完成したら、「兼業本屋」としてサラリーマンと並行してやっていきます。

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—最後に、”街と本屋”、もしくは”暮らしと本屋”というテーマに関して松井さんのご意見をお聞かせください。

街のことについては、僕は「本を売る人」なので「街の中に買える本棚を増やしたい」って思ってます。やっぱり本が売れないと次の本が作れないので、これから本を作っていく、本を読んでいく人たちのために、「買える環境」を作らなきゃいけない。

あとは小屋ブックスは「働き方の総合書店」がテーマだったんですけど、新店ではオールジャンルを置く予定です。とはいえ「働き方」を広くとらえて、「生活=誰かの仕事」をもう一歩深い視点で見れるような本を中心に置いていこうかと思いますね。例えば『ハンバーガーの歴史』とかね(笑)

—楽しみにしてます! 今日は本当にありがとうございました

完成した店内の様子

完成した店内の様子


 

DIYで「生き方」を作る

書籍の出版から本屋の内装にいたるまで、何事も「やってみないと分からない」という松井さん。筆者もまた今回のインタビューを通じて、生活も仕事もすべて自らの手で「やってみる」というDIY精神をビリビリと刺激されました。

「小屋ブックス作りも、本作りも全部そうで、最初はわからないことだらけなのも当たり前で、だけどとりあえず自分でやってみるうちに一定の理解は得られるなと。実際の本作りを通じて、タイプフォントの世界を知ったり、棚作りを通じて構造に興味が出てきてだんだん棚作りが上手くなっていったんですよね。すのこの構造を知って、すのこを裏返せば本棚になるじゃんっていう発見があったんですよ。」

本の魅力とは「知らないことを知ることだ」とは、KUJIRA BOOKSの衣斐さんもおっしゃっていたことですが、インターネットと街に「新しい本屋」を作り出している彼らの口ぶりから共通して窺い知ることができたのは、「発見」をベースにした暮らしの哲学でした。

その哲学とはつまり、「知らないこと」に物怖じするのではなく、好奇心をエンジンに自ら近づいていくこと。

松井さんの真面目な人柄の奥に隠された「人懐っこさ」は、その好奇心とチャレンジ精神の賜物なのかもしれません。皆さんも「本のある暮らし」を通じて自分の知らない世界にチャレンジしてみてはいかがですか?

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「H.A.Bookstore」店舗情報
(住所):東京都台東区蔵前4-20-10 宮内ビル4階
(開店時間):土日祝 12:00~17:00
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