古いビルから始まる一冊の本の物語 ―「森岡書店」森岡督行さんに聞く、“一冊の本を売る書店”とは[前編]

    古いビルから始まる一冊の本の物語 ―「森岡書店」森岡督行さんに聞く、“一冊の本を売る書店”とは[前編]

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    「一冊の本を売る書店」、そんな不思議なコンセプトの本屋さんが銀座にあるのをご存知ですか? 2015年5月5日にオープンした「森岡書店 銀座店」は期間ごとに一冊の本をフィーチャーし、販売しているのです。

    本や雑誌の販売額が10年連続して減少している今、オーナーの森岡督行(よしゆき)さんは、なぜ一冊の本“しか”売らない本屋さんをつくることを決めたのでしょうか? 前半の今回は、森岡さんご自身について伺いました。

    世の中や社会に、背を向けていたころ。

    オーナーの森岡督行さん。森岡書店銀座店にて。

    オーナーの森岡督行さん。森岡書店銀座店にて。

     

    ― 森岡さんは昔から本が好きな少年だったんですか?

    山形県寒河江市に住んでいる、普通に本が好きな少年でした。小説よりは、エジソンやキュリー夫人、野口英世などの偉人伝などを図書館で借りて読んでいました。漫画版の「日本の歴史」も好きでした。小学校1年生の頃は漫画家になりたいと書いたのを覚えています。

    ― 「小説家になりたい」ではなく?

    高校1年生の時は、進路の面談で「古着屋になりたい」と言っていましたね。リーバイスとかLeeとかアメリカのビンテージ・デニムがはやっていて、それに影響されたんだと思いますが(笑)。

    東京の大学を卒業したものの、やや社会に背を向けた人間だったので、卒業して1年はアルバイトをしながら生活していました。アルバイトをして、散歩をして、あとはぼんやりして。

    ― ぼんやりしながら何を考えていたんですか?

    このままこの社会が存続したら、必ず環境問題で破綻するとか、そんなことばかり考えていました(笑)。散歩でドラッグストアの前を通る時に、圧倒的な物量や色や音楽に押し倒されそうになりました。

    ― 早くからエシカルな考え方だったんですね。

    当時、影響を受けた本が、ちょっと社会に背を向けるような本だったからでしょうか。すごく若かったし、将来のこともあんまり気にもせず、1年はちょっと立ち止まってみようとかと言いながら、アルバイトをしていたんです。いずれかのタイミングで、社会と折り合いをつけなくてはいけないというのも、何となく考えていて。

    すごく幸運なことに、当時よく古本を買いに通っていた神保町の一誠堂書店に求人が出ているのを見つけました。これだったら自分が好きなこともできて、古本はリサイクルだし、社屋も古いビルだし、やってみようと思い応募しました。

    すべては、出会いから始まる。

    神保町の一誠堂書店

    神保町の一誠堂書店

    出典:www.abaj.gr.jp

    一誠堂書店では本当にいろんなこと教えてもらったので、幸運としか言いようがないですね。最初はいくら好きとはいえ、知らないことが多くて、「落丁調べ」をやったり、店頭に立つことで覚えて行きました。

    ― 「落丁調べ」というのは何をするんですか?

    お札を数えるように、5の倍数でノンブル(ページ数)が揃っているか調べるんです。一誠堂書店の社長には、「落丁調べの中で、本を覚えろ」と言われていました。単純作業ではありますが、すごく自分の性に合っていて、興味のない本でも毎日次から次にくるので、勉強になりました。

    ― 約8年勤めた一誠堂書店を辞めたのは?

    たまたま訪ねた茅場町の古美術店が店じまいすると聞いて、「ここで古本屋をやりたい」と言ってしまったんです。ビルの趣きにひかれたのもありますが。

    ― そこで生まれたのが、茅場町の「森岡書店」ですね。

    何かのついでに来るような場所ではないけれど、雰囲気はあったんです。何とかなるだろうと思っていたんですけども、1年ぐらいは大変でした。どうしたものかと考えていたときに、ある方から存続のためにもギャラリーを併設したほうがいいとすすめられて。

    それがご縁で平野太呂さんの写真集「POOL」の作品展を開催させてもらいました。ギャラリーにはいろんなお客さん来てくださり、そこからいろんな仕事が派生していき、「森岡書店」を続けていくことができました。来てくださったお客さんに助けていただきました。

    ― 森岡さんはターニングポイントでキーパーソンに出会える運を持っているんですね。

    一期一会は本当だなと思います。人と出会ったら、何かおもしろいことが起きるんじゃないかといつも思っているんです。茅場町で「森岡書店」を始めて何年か経った頃から、今日はどういう人と出会えるんだろうというような楽しみが生まれてきたというのも大きいです。

    ― 2店舗目「森岡書店 銀座店」のオープンも、ビルとの出会いが一つのきっかけだったとか?

    鈴木ビル外観

    鈴木ビル外観

     

    そうですね。このビルは「鈴木ビル」と言って、昭和4(1929)年に建てられたものです。現在は東京都選定歴史的建造物に指定されています。私のお店がある場所には去年まで40年も続いていた喫茶店がありました。そのお店が閉店すると聞いて、見に来たのが最初です。

    そ れとは別に、このビルには戦中、「日本工房」という編集プロダクションが入っていたそうです。日本工房では、『NIPPON』という対外宣伝紙を作ってい て、日本の当時の近代化とか、文化を外国に紹介していたんですね。もともと日本工房の本や対外宣伝紙を集めていたので、なみなみならぬご縁を感じてしまって。

    その歴史的背景がなかったら、ここに出店すると決められなかったと思うんです。以前から思い描いていた「1冊の本を売る本屋」というコンセプトを試してみるのに、整合性もあるし、意義があるとすごく納得できたというのはあります。

    鈴木ビルの入り口。このビルで対外宣伝紙が作られたいた

    鈴木ビルの入り口。このビルで対外宣伝紙が作られたいた

     

    ― 広さといい、場所といい、時期といい、全部がぴたっとはまった感じですね。

    まさに。あと店の奥、木の板の下にぽっかり穴が空いているんですね。ここは石炭置場だったと大家さんが教えてくれたんですが、実は石炭置場がある空間にもわりと縁がありまして(笑)。

    写真右の木板の下が石炭置場だったところ

    写真右の木板の下が石炭置場だったところ

     

    学生時代、中野にある昭和初期に建ったアパートに住んでいて、ベッドの下が石炭置場でした。一誠堂書店の地下も昔は石炭置場だったり。まあ、昔のビルってたいてい石炭置場があるんですね(笑)。私がいまだに石炭置場のある空間を点々としているというこ とです。

    だから、ここに石炭置場があったと聞いたときに、呼ばれたなと思いましたね。いろんな意味で。

     

    後編につづく)

    ※次回は、「森岡書店 銀座店」のリノベーション秘話のほか、森岡さんおすすめの“東京の古いビル”といったお話も伺っています。後編もお楽しみに。

     

    「森岡書店 銀座店」

    東京都中央区銀座1−28−15 鈴木ビル1階
    営業時間:13:00〜20:00
    定休日:月曜
    電話:03-3535-5020

     

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