古いビルから始まる一冊の本の物語 ―「森岡書店」森岡督行さんに聞く、“一冊の本を売る書店”とは[後編]

    古いビルから始まる一冊の本の物語 ―「森岡書店」森岡督行さんに聞く、“一冊の本を売る書店”とは[後編]

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    「一冊の本を売る書店」、そんな不思議なコンセプトを掲げオープンした「森岡書店 銀座店」。オーナー森岡督行(よしゆき)さんへのインタビュー後編では、お店のリノベーション秘話のほか、建築について造詣の深い森岡さんおすすめの“東京の古いビル”についてもお話を伺いました。

    ※前回の記事はこちら
    古いビルから始まる、一冊の本の物語 ?「森岡書店」の森岡督行さんに聞く、一冊の本を売る本屋とは[前編]

    ― 「一冊の本を売る」というのは、すごく大胆なコンセプトですが、いつから温めていたのですか?

    それが茅場町のお店を開業して1年目には言っていたらしいです。すっかり忘れていたのですが、銀座店を始めてすぐお客さんが教えてくれました。つまり、9年前ぐらいには決めていたんです。

    茅場町でも年に何回か出版記念のイベントを行っていて、私自身もすごく楽しいし、著者もよろこんでくださるし、来てくれるお客さんも作家さんと触れ合えるという点ですごくいいなと思って。そこが一冊にこだわった原点ですね。

    森岡書店 銀座店

    森岡書店 銀座店

     

    ― こちらの店舗はもともと古い喫茶店だったと仰っていましたよね。その空間をどのようにリノベーションしていったのでしょうか?

    借りるときは、スケルトン(建物の構造そのもの)の状態でした。そんなに予算もなかったので、壁を塗って、天井に照明をつけて、入り口のガラスをはめて、什器を並べるだけで空間を構成しようと考えていました。

    ― 壁の塗装はご自身で?

    最初、自分で塗るつもりだったんのですが、間に合わなくなってしまったので、結局業者さんに塗ってもらいました。業者さんが塗りきれなかった細かいところだけ、自分で塗りました。配管とかエアコンとか。

    細部まできれいに塗られている

    天井も細部まできれいに塗られている

    エアコンも壁・天井と同色に

    エアコンも壁・天井と同色に

     

    ― 全体をこの色にした理由は?

    最初はもうちょっと薄い白にして、もともと壁に残っていた数字や線といった建設時の書き込みを、うっすら残そうと思っていたんです。それはそれで良かったのですが、展示する作品によっては合わない場合も出てくるかなと思い、途中からアイボリーに近い白に変えました。おかげで、よりニュートラルな空間になったと思います。

    ― 什器はどのように選んだのでしょう?

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    奥のカウンターとして使っている棚は、たぶんフランスの図書館か小学校で使われていたものです。札幌のUNPLUGGEDというお店から買いました。下にもう2段あったのを切ってバランスを取りました。

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    真ん中の机は、福岡のkrankというお店にあったものです。これもフランスから来たものだと聞いています。ウェブで見て、この空間にハマるなと思い取り寄せました。

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    ランプは清澄白河にアトリエを構えている飛松陶器さんのもの。優しい光がいいですね。

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    そして黒電話。ここの大家さんが黒電話を使っておられて、そのベル音を聞いたときに、「これだ」と。アーティストのフクシマミキさんが友人なのですが、たまたま「自宅で使っていないものがある」というので、貸してもらいました。

    ― 絵に描いたような黒電話ですね。?

    年代を感じますよね。ベルの音やダイヤルを回す音など、とにかく質感がいいんです。

    ただひとつ困ったことがあって……宅配便の手配をする時に、音声案内で「1を押してください」っていうのがあるじゃないですか。あれができなくて。試しに「1」を回してみたけれど、ダメでした(笑)。

    ― そのほかにこだわりの部分は?

    あとはですね、棚から入り口までの縦の長さ横幅が、黄金比になっています。

    ― この「鈴木ビル」自体も、細部までこだわりがあってすごい建物ですよね。

    かつてこのビルは「甲子屋倶楽部」と呼ばれていて、お芝居の公演などをしていたそうです。当時の最新の西洋建築に、オリエンタルなものをミックスしたモダンさが不思議な雰囲気を醸し出しています。馬蹄形の窓やアールデコ風のレンガ、柱の幾何学模様など、見れば見るほど不思議です。

    どことなく東洋風な模様のタイルが印象的

    どことなく東洋風な模様のタイルが印象的

    玄関付近のタイルは、絵画的で美しい

    エントランスのタイルは、ビビッドな黄色が絵画的で美しい

    中国風の組子の丸窓

    中国風の組子の丸窓

    4階にある馬蹄形の窓

    4階にある馬蹄形の窓

     

    ― 森岡さんは古い建築にも精通されていますよね。東京の古いビルで、イチオシのものってありますか?

    そうですね、たくさんあるのですが……1963年に建築家、村野藤吾が作った「日生劇場」(東京都千代田区有楽町1-1-1)はいいですね。日本でもない、ヨーロッパでもないものを突き詰めて生まれた形でしょう。完成されているなと思います。

    img_zaidan03

    出展:www.nissaytheatre.or.jp/outline/zaidan.html

     

    あと、村野藤吾の作品だと、もうひとつ「近三ビル」(東京都中央区日本橋室町4-1-21)ですね。ぱっと見るとただの四角いビルなのですが、素晴らしいです。1931年の建築で、四角でしか構成されていないんですね。エントランスが一部だけアーチ状にカーブしていて。あれが昭和初期に作られたものだと思うと、本当にすごいとしか言えない。

    周りに日銀や三井本館、日本橋三越などデコラティブで美しいビルが並んでいるので、それに対抗したんだろうなと想像しています。

    ― 古いビルの魅力とは?

    東京にあるものなのに、東京を感じさせないし、日本的でもない。かと言って、ヨーロッパでもない。そういう、場所的なゆさぶり。

    また、今でもないし昔でもないという、時間的なゆさぶり。

    空間を通じて、その2つの身体的体験を享受できるというのが最大の魅力です。例えるなら、ディズニーランドのアトラクションに近いものがあるのかなと。いとも簡単に非現実を味わえるのは、古い建物ならではの面白さだと思います。

    インタビューを終えて

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    優しい眼差しが印象的な森岡さん。静かな店内に流れる空気があまりにも穏やかなので、ついつい長居をしてしまいました。

    店主である森岡さんとゆっくりお話したくなるような素敵な空間作りは、さすがのセンス。次の休日は、古いビルを見に、そして森岡さんに会いに「森岡書店 銀座店」へ遊びに行くのはいかがでしょうか?

     

    (おわり)

    「森岡書店 銀座店」

    東京都中央区銀座1−28−15 鈴木ビル1階
    営業時間:13:00〜20:00
    定休日:月曜
    電話:03-3535-5020

     

     

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