黒板に文字やイラストを配した“チョークグラフィック”、最近はおしゃれなカフェやショップでよく見かけるようになりました。さらにリノベーションしたお家などでは、自宅の壁に“黒板塗装”をする方も!今や黒板は、単に学校で使うものというだけでなく、暮らしを楽しむためのツールになりつつあるのかもしれません。
そんな黒板の楽しみ方を探り続けているのが、黒板描きのCHALKBOY(チョークボーイ)さん。東京を拠点にカフェやショップ、企業オフィスのチョークグラフィックを手がけるほか、一般の方向けにチョークグラフィックのワークショップ等も主催されています。今回はCHALKBOYさんに、“黒板”と“チョークグラフィック”についてお話を伺いました。
カフェの黒板を30分でどう描き直すのか。僕の人生はそこから変わった。
― まずはCHALKBOYさんご自身について教えてください。そもそもアルバイト先のカフェで黒板にメニューを書いたのが、CHALKBOYとしての活動の始まりだと伺いました。
そうですね。ディナー営業の前、17時ぐらいに黒板を消して書き直すシフトがあったんです。30分ほどの時間だったのですが、3品程度なので15分ぐらいで終わっちゃうんですよ。早く休憩に行きたいから、さっと書いて終わり。でも僕はそれが嫌で、30分きっちり使って、見よう見まねでお店にあるビールやワインのラベルを描いていました。ラベルの中の文字を「Today’s Recommendation(本日のおすすめ)」に変えて、その下にメニューを書いてみたら、お客様からの評判がよくて。
それから、モチーフを自分から探すようになりました。その頃はまだチョークグラフィックの”チョ”の字もなかったので、自分で探りながら描いていましたね。
― 当時のチョークグラフィックのアイデアはどこから?
働いていたカフェが本屋さんを併設していたんです。グラフィック系の本が多かったので、それはよく見ましたね。今みたいにPinterestやInstagramがなかった時代で。
― そこから、チョークグラフィックを仕事にしていくわけですね。
最初は僕もそれを仕事にしようと思ったわけじゃないんです。そのお店が新しくカフェをオープンする際に、「いつも黒板描いているバイトくんいたよね?」ということになって。そこからですね。実際に描いたものをInstagramに載せていたら、知人から「うちにも描いてよ」と呼ばれるようになって、どんどんつながっていきました。
― 絵はもともと得意だったんですか?
高校の時からグラフィックデザインの学校に通っていました。ちょっと変わった高校で、ビジュアルデザイン科という学科があって。その後、1年間ロンドンに留学して、美大に通いました。そこでは、グラフィックというよりは、音のプロジェクトみたいなものをやったりしていました。
―音ですか!?
はい、henlywork(ヘンリーワーク)という名義で音楽の仕事もやっていて、実はそっちのほうが活動期間はずっと長いんですよ。最近では、テニスプレーヤーの錦織圭選手が出ているユニクロのCMメイキング映像とか、ダンサーのKento Mori(ケント・モリ)さんが今年の4月に発売したDVDに音楽を提供しました。
他にも、EATBEAT!(イートビート!)というグループでイベントをやったりもしています。料理人とダッグを組んで、調理音や野菜の収穫の音、食べる音、かじる音なんかをサンプリングして、音楽にしていくんです。
― 活躍の幅が本当に広いですね…。ちなみに今かぶっておられる帽子もお手製だとか。
?
そうなんです。仕事以外で趣味は何かと聞かれたら、服を作ることなんですよ。どうも作るほうの脳みそが発達しているみたいです(笑)
描いては消して情報を更新する…それでこそ黒板は生きてくる!
― さて、ではチョークグラフィックのお話を。CHALKBOYさんはさまざまなショップのチョークグラフィックを手がけておられますよね。実際に黒板を描く際に、特に意識していることを教えてください。
僕は、黒板は情報を更新することが大切だと思っています。そうしないと黒板が生きていないというか、使われていないんだったら壁紙とほぼいっしょ。壁紙でさえ汚れたら拭いたり、張り替えたりするじゃないですか。黒板の内容もやっぱりフレッシュなほうが、人の目を楽しませることができます。特に飲食店だと、食材のフレッシュ感なども毎日黒板を書き換えることで出せるのかなと思っています。
チョークグラフィックではなくても、例えばカフェやレストランなどで、「今日は◯◯の野菜を使っています」というメッセージを黒板に書いて置いていたりしますよね。あの形はすごく良いと思うんです。上手下手ではなく、その時その人たちにしか書けないものですから。
実際に僕がお店からチョークグラフィックのご依頼をいただく際にも、消えない画材でフレームだけを描いておいて、空いたスペースにお店の方ご自身で毎日文字を書き入れてもらえるようにする、というパターンを提案させてもらうことが多いですね。
― 最近ではカフェ風のインテリアを意識して、自宅の壁の一面を黒板にしたりする方も増えています。日常の中で、上手におしゃれに黒板を活かすコツはありますか?
まず“使いどき”として分かりやすいのは、自宅に両親や友人を招いたりするタイミングでしょうか。「Welcome to ◯◯」というようにゲストの名前を入れてみたり、カフェのように、自宅に自分のお店を開くような感覚で“今日のメニュー”を書いてみるのも面白いと思いますよ。
― CHALKBOYさんも、ご自宅で黒板を使ったりされるんですか?
やってますよ!僕自身、“黒板のある暮らし”の魅力を伝えるために、お家の中でどう使ったらいいのか日々模索しています。例えば、自分へのリマインドを目的にスケジュールやタスクを書いてみたり。遅い時間に帰宅したとき、夕飯を用意して先に休んでいる奥さんに向けて、「ありがとう」みたいなメッセージを書いたりしていますね。
― それは素敵ですね!たしかに、家族にサプライズでメッセージを送るツールとしてはすごく使いやすそう。
やっぱり黒板は自分だけが使って楽しいものではなく、コミュニケーションのツールとしてあるべきなんだなと思います。だから僕としても、お家の中に黒板を取り入れようとする方が増えているというのは、すごく嬉しいことなんです。
― 一方で、“いいな”と思ったチョークグラフィックを参考にイラストやレタリング(飾り文字)にチャレンジしても、なかなか素人には難しいような気もするんですよね…。コツであったり、意識したいポイントがあれば教えていただきたいです。
そうですね、僕もよく「何を参考にして描いているんですか?」と聞かれるんですが、それより大事なのが「参考の仕方」だと思っています。かっこいいものや素敵なものを見たときに、それをそのままチョークアートに落とし込もうとすると、単なるパクリになってしまい、しっくりこないんですね。
ではどうするのかというと、まず“いいな”と思ったものの中の、どのポイントが良いと感じたのか、その要素を洗い出してみるんです。「良い」という感覚を明確にすることは簡単ではないかもしれませんが、その分すごく良いトレーニングになります。
― 他にはいかがでしょう?
“ゆっくり丁寧に描くこと”でしょうか。図形の枠線を描く際には線と線を最後までしっかり“閉じる”ようにしたり、ムラのないようきっちり塗りつぶすようにしたり。それだけで、ザッと描いたようなものとは仕上がりに大きく差がでます。
一般の方にワークショップなどをやらせてもらったりもしていて、参加者の中には「私は絵がヘタだから…」と仰る方も少なくないんですが、みなさん数時間もすれば一気に上達されますよ。
― ワークショップ、すごく気になります…。
細かい部分でコツのようなものがいくつかあるので、テキスト等を用意してしっかりお教えするようにしています。ありがたいことに毎回満席になってしまうのですが、Instagramでは早めに告知するようにしているので、興味をお持ちいただけたらぜひチェックしてほしいですね。
インタビューを終えて
インタビュー終了後、CHALKBOYさんが実際に黒板に描く様子を見せていただきました。迷いなく美しい線を描き、絵が生まれていくさまに、ただただ感動。道具へのこだわりを伺ったら、「障がい者雇用を推進している日本理化学工業のチョークを使っています」とのこと。飽くなき探究心とアイディア、そして真摯な姿勢で、どんどん活躍の場を広げているCHALKBOYさんにこれからも目が離せそうにありません。作品は、Instagramで頻繁にアップされているので、こちらもぜひチェックしてみてください!
CHALKBOY(チョークボーイ)
Instagram @chalkboy.me