建築学者の住まいから覗く、「書斎」のある生活風景。

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    eA編集部がお送りしている特集「本のある暮らし」。今回訪問させていただくのは、元大学教員のAさんと、心理カウンセラーの奥さんお二人のお住まいです。

    両親との同居を決めたAさんが、すべてご自身の手で設計したという木造の2世帯住居。

    仕事人であれば誰もが憧れる「書斎のある生活」について、建築学者ならではの意匠と、意外な悩みを伺ってきました。

    Aさん自ら用意してくださったご自宅の平面図。

    Aさん自ら用意してくださったご自宅の平面図。

     

    Aさんは以前、某有名国立大で建築学を教えていた大学教授でしたが、2014年に勤務先の大学を定年退職し、多くの時間を自宅で過ごしているといいます。

    職業上、大量の専門書を必要とするほか、ともに読書を好むため、住まいの中にはどうしても本があふれるというご夫婦。

    そんな「本まみれ」な生活の拠点となるお宅には、どのような意匠がこめられているのでしょうか。?

     

    設計に際して考えたこと

    − まず最初に、お住まいを設計された際の全体的な狙いについて教えて下さい

    まずは全体を寝室やバス/トイレ等の「プライベート・スペース」と広い意味での「リビング・スペース」に分けるところから着手しました。

    限られた大きさのリビング・スペースは連続した一つの空間とし、その中にキッチン、ダイニング、リビングの間取りを決定しました。さらに図面の上でピアノを置く場所、夫婦それぞれの仕事場等を設けていきましたね。

    仕事場は狭いスペースに集中しているので、世の中でイメージされている「書斎」といえるような大それたものではないかもしれませんが…

    − 生活空間に仕事場が必要になるのは、やはりお仕事で必要になるからでしたか?

    そうですね。仕事柄、夫婦共に自宅での仕事場が必要だったのは確かです。ただし、週日の仕事は主として夜間に行っていましたね。

    仕事場には書籍を収納するためのスペースだけではなく、さまざまな書類(主としてA4サイズのファイル)のためのスペースが大量に必要になります。また、パソコン、プリンター、スキャナー、シュレッダー等の機器のためのスペースも要る。

    − 生活空間における本棚や書斎スペースの比重は、どのように定義されましたか?

    「人目に触れる書棚・書籍はなるべく少なく」が設計の意図としてあったので、仕事場はできるだけ独立させて、あまり他人の目に触れぬスペースに「追いやる」形になりました。

    というのも、所蔵する本を見やすい形に分類整理することが本来であれば望ましいのかもしれませんが、それを他人様に開陳する趣味がないもので(笑)なので、実際に足を踏み入れるのは私と愛犬くらいでしょうか。

     

    できあがった仕事場と本の行き場

    − なるほど。書籍が商売道具のひとつともなると、かえって扱いは控えめになるのかもしれませんね。他にも書斎や本棚の設計についてこだわったポイントはありますか?

    私の仕事場は北側のアルコーブに、また、妻の仕事場はリビング・スペース東端の角を周った裏手に用意しています。いずれも机を造りつけていますね。仕事場のあるスペースは、リビングより一段(72?)下がっている。

    独立した書斎といっても鍵付きのドアがあるわけではなく、空間としては連続しています。来客をもてなしたり、くつろいだりするスペースからは見えなくなるよう、視線を設計したというところでしょうか。

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    − 本が溢れている分、それを視線から隠そうというデザインなのですね。では、リビングには作りつけの立派な本棚がありますが、この本棚についてお話をお聞かせください。

    大きなリビング・スペースの壁面は書棚を設けるには好都合でした。しかし、あまり目立って欲しくはないというのが本音でして…。なので人目に触れるこの場所に収める本は、知人・友人から寄贈された著書、歴史・文学書などがメインです。

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    本棚を天井まで届くようにすると威圧感があるので、ある程度の高さで留めています。最上部は天井の勾配に合わせて上に物が置けないようにしました。

    − では、気になる書斎を拝見いたします。あら、意外にコンパクト!

    素直に狭いとおっしゃってくれればいいのに(笑)。私の仕事場は4面が書棚・書類棚。潜水艦のようなスペースで仕事に没頭できる…はずだったのですが。

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    − 「はずだった」とは?

    いくつか困った点もありまして、スペースの制約上、建築関係の大型本の行き場に苦慮することが多いです。さらに、やりかけの仕事が複数あると、それぞれに仕分けるためのスペースが足りないなんてことも。雑誌類はすべて処分したのですが…。

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    隙間に増殖してくる本たち。

    隙間に増殖してくる本たち。

    奥様の仕事場。仕事柄、雑誌、資料の類が多い。

    奥様の仕事場。仕事柄、雑誌、資料の類が多い。

    小説や趣味の本は、プライベートな寝室の壁を一面利用して。

    小説や趣味の本は、プライベートな寝室の壁を一面利用して。

     

    書斎の現在

    − 定年後、ご自宅での書斎の使われ方になにか変化はありましたか?

    大きく変わりましたよ。書斎は日中の時間帯を過ごすには寒いし、暗い。仕事場は明るいリビングに移り、書斎は書庫、事務用機器置場と化しました。それはそれでよいと思っています。

    それから定年後、職場から持ち帰った書籍の多くは段ボールに入ったまま、あちこちに放置されている状態で、これも頭痛の種です。

    − 処分するにももったいない、貴重な本ばかりだからでしょうか?

    そうですね。定年を迎えたとはいえ、研究や著述の参考資料となる書籍・資料は捨てられません。どの本に何が書かれていたかはおぼろげにでも記憶しているし、その本がどこにあるかも認識している。

    特に、下線を付したり、注記を施した本は「脳外脳」といいますか。「外付けメモリ」のような感じで、捨てるのはあまりにも切ない。ほかにも、繰返し読みたい本、美しい本、思い出の本など、捨てることのできない本はあります。

    同じ問題を抱える同分野の友人たちと、蔵書を集めて共同の資料館をつくろうかと話し合ったこともあります(笑)

     

    建築学者の考える「書斎」

    − Aさんは、普通の小住宅のなかで「書斎」をどう扱うべきだとお考えですか?

    少し歴史的な話からはじめますと、過去のきらびやかな大邸宅の遺産をわがものにしたいと願った19世紀末、20世紀前半のイギリス中流住宅であれば、1階の玄関に近い場所に書斎を置き、応接の場にも供したことだろうと思います。

    また、「ライブラリー(図書室)」があるならば、それは2階の主寝室の前室にあたる階段上部のギャラリーをもったいぶってそのように呼んだことでしょう。しかし、現代日本の普通の住宅では、本のある空間を機能別に独立させて設ける余裕はありません。

    − 確かに、「書斎への憧れ」にはどこか伝統的な邸宅文化がベースにあるのかもしれませんね。

    そうですね、でも現代の仕事場(≒書斎)は単に本を置く場ではなく、雑多な資料や事務用機器があふれている空間です。したがって、日常生活のなかで家人がくつろぎ、あるいは来客のあるリビングと相性が良いとは言えない。なるべく、隔離、独立させるべき。

    さらに、仕事上の来客が多いのならば、そのスペースを玄関に近い場所に置くべきだと考えます。書斎で過ごす時間が長いならば、明るく居心地のよい場所がよいでしょうね。

    − 書斎を設けるスペースの余裕がない場合は、どこに仕事用スペースを設けるのがベストでしょうか。

    多目的の大きな机面のある共用スペースを適時その用に充てるのがよいと思います。その場合、書庫や事務用機器のスペースは別に設けたいですね。しかし、共用のスペースに本を収納せざるを得ない時には、廊下、階段室などにまとめて整理することもよいアイデア。ただし、整理・整頓が苦手な人には向かないかもしれません。

    − 具体的なアイデアで、とても参考になります。本日は貴重なお話ありがとうございました!


     

    編集後記 〜学者は意外にシャイだった〜

    残念ながら顔出しNG、名前も伏せてのインタビューとなりましたが、Aさんの言葉の節々には「趣味や教養本、専門書のありったけをこれみよがしに並べて見せることは品がよくない、あるいは恥ずかしいことである」というお考えがにじみ出ていました。

    さらには実際のお宅事情にも、書籍の溢れる住まい独自の「お困りポイント」が多数おありになるご様子でしたが、そんななかでも「書斎」をめぐる深い洞察とアドバイスが次々と出てくるあたりは、さすが建築に通じるプロ。

    皆さんも書斎にまつわる理想と現実を参考に、未来の住まいを考えてみてはいかがですか?

     

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