私たちの多くが、20代〜40代にかけて「結婚」や「出産」、「子育て」などのイベントを迎えますが、それらの節目にあわせて変化していくのが住まいというもの。
今回お話を伺ったジェイニーさんは、中国人のご両親のもとストックホルムで育ち、イギリスの大学を卒業した後、スウェーデン人の旦那さんとご結婚。その後も仕事や大学院進学等で世界各地を転々とし、現在はニューヨークで3歳になる娘のエリナちゃんと家族3人なかよく暮らしています。
そんな国際色豊かな背景を持つジェイニーさんにとって、「家」とはどのような空間なのでしょうか。
「引っ越し」「子育て」などのライフイベントから「家具選び」に至るまで、お話を伺いました。
転居生活を支える好奇心と住まいへの愛情
ジェイニーさん一家が現在のお住まいであるニューヨークに引っ越したのは二年前、一人娘のエリナちゃんが10ヶ月になるタイミングだったといいます。その前は国連で働いている旦那さんの初めての配属先であるレバノンの首都、ベイルートで3年間暮らしていたというご一家。
ベイルートでジェイニーさんはアラブ語を勉強し、長年の夢だったSave the Childrenの児童保護プロジェクトでインターンシップを経験します。その後、国際関係論の研究を継続したいというジェイニーさんの願いによりニューヨークに移住。グランド・セントラル・ステーションに近くの小さなワンルーム・マンションを借りて、勉強を続けながら本格的な家探しを開始したといいます。
引っ越した当初は、なにもかもスケールが大きく、目まぐるしく人・モノ・情報が行き交うニューヨークに当惑し、街からつま弾きにされているような感覚も覚えたそうです。しかし、「海外移住をする際には、新しく住む街の文化と徐々に心が通っていくプロセスが楽しい」と語るジェイニーさん。
この好奇心の背景には、学生時代から世界各地を転々とした経験がありました。
ヨーロッパからベイルート、そして渡米へ
自立志向の強いヨーロッパの大学生は、学生寮で一年生活をしたのち、気の合う仲間とシェアハウスをするのが一般的。ジェイニーさんもその例に漏れず、イギリスの田舎町のおんぼろ借家を学生仲間とシェアしていたといいます。
世界各地から集まった個性的な仲間とともに家の修繕をしたり、部屋やキッチンの壁に思い出の写真を飾ったりといった小さなこだわりの積み重ねのなかで、「住まいへの誇り」が形成されていったとか。
そんなジェイニーさんにとって一番思い出深い街は、留学と仕事で計2年間すごしたというベルギーのブリュッセル。18世紀に建てられたという小さなロフト・アパートの窓から見える、古い教会の姿が今も懐かしいそうです。
その後、現在の旦那さんと出会い、ストックホルムで結婚。旦那さんの仕事の関係でベイルートに移住すると、これまでのワンルーム生活とは大きく異なる、2ベッドルームの広々としたアパートに居を構えます。
美しい家具を居抜きで揃えた最初のアパートには、賑やかな大通りを眼下に一望できるテラスがあり、遠くにそびえる雪を冠した山脈と、ときおり垣間見える地中海の輝きが大きな魅力でした。
その後もベイルート市内で一度引っ越しをするなど、仕事や学業の都合上、毎年一回は住まいを変えていたジェイニーさんご一家にとって、なにからなにまで家具を自らの手で揃えたのは、ニューヨークに引っ越してからが初めてのことだったといいます。
これまでの絶え間ない転居生活も、ひとまずは小休止。「ようやくこれで家らしい場所が見つけられた」と話すジェイニーさんは今、ブルックリンの改装済みアパートで暮らしています。建物内にスポーツジムがあったり、専属のドアマンがいたりという「いかにもニューヨーク」な豪勢さもありながら、家族暮らしにもぴったりで、通勤・通学にも便利な点は、今までの住まいよりも気に入っているポイントだとか。
「家」は「作品」
学生時代からインテリアデザインや家具に高い関心をもっていたジェイニーさんは、自らのルーツの一つである北欧スタイルの特徴であるシンプルでナチュラルな木材を多用したデザイン、植物のモチーフなどに深い愛着を持っているといいます。
家具探しにはIKEAやCB2などの大型ショップを利用することもありますが、最近では中古やビンテージの家具をセカンドハンドショップやフリーマーケットから探し出すのがジェイニーさんご夫婦の楽しみに。
中でもご自慢の一品がダイニング・テーブル。ビンテージショップで見つけた丸い木製のテーブルトップに惚れ込んだジェイニーさんでしたが、その時にはまだテーブルに足がついていない状態だったといいます。そこで地元の溶接工に頼みテーブルに足を取り付けてもらったところ、「作品」として誇りたくなるような一品ができあがりました。
3歳のエリナちゃんのお部屋にもまた、北欧スタイルならではのカラフルですっきりとした色使いが。このような部屋を通じて、デザインへの感度が受け継がれていくのでしょう。
愛ある家庭を築くために、家具にも愛情をもって接すること。そんなジェイニーさんのこだわりが溢れた空間が生まれています。
子育てに大切なのは「環境」と「チーム作り」
夫婦にとって所縁の場所でもあるストックホルムで出産してから、数ヶ月後にはベイルートに舞い戻ったジェイニーさんでしたが、安全な歩道や公園の少ないベイルートでの子育てはなかなか骨の折れる仕事だったといいます。さらには定期的に訪れる停電や水不足にもアタマを悩まされることになりましたが、そんな悩みと引き換えに、その子育て生活は「特別な経験」だったと語るジェイニーさん。
美しいビーチ、快適な天気を満喫できるのはもちろんのこと、ママ友と一生モノの友情関係を築けたこと、さらにはレバノンでは一般的ではなかった「母乳での育児」の促進活動に携わることができたのも大きな収穫だったといいます。
そんなベイルートでの育児経験に比べれば、ニューヨークでの子育ては「楽勝」とジェイニーさんは語ります。たくさんの公園や、絵本の読み聞かせをしてくれる公共図書館の存在、さらには近所の子どもたちが集う音楽会が定期的に開かれるなど、子どもを魅了するような楽しみが街中いたるところにあふれているのがニューヨークの素晴らしさ。
その一方で、慣れ親しんだスェーデンでは当たり前の「長い育児休暇」や、「無償の学校教育」(NYの託児サービスはとても高額だとか)、「高度な医療制度」や「アウトドアでの楽しみ」など、ニューヨークでは満たされないポイントがあるのもまた事実。
しかし、そんな少しの不満点も、ニューヨークを散策する楽しさの前では吹き飛んでしまうそうです。
母親として学ぶこと
現在、ニューヨークの大学院で国際関係論を学んでいるジェイニーさんにとって、「学業」と「母親業」との兼ね合いはパーフェクトだといいます。育児それ自体が知的刺激に満ちているだけでなく、時間を好きなように使えるので親子の時間を大切にできることも魅力だとか。
もちろん、論文の提出締め切りなどで忙殺されることもありますが、その際にはすべての家事を引き受けてくれる旦那さんの助けがありがたいそう。「いいチームを組めば、なんだってうまくいくもの」と語る言葉には、心からの実感がこもっていました。